市場POSデータ分析

分析講座 第10回 市場POSデータ分析:初級⑨

今回は、第8回と第9回で紹介した、販売店率、1店あたりの販売数量、平均価格の3つの指標を実際のデータを使って見てみます。

 

 

 

 

まず、7位のアイテムGを見てください。アイテムGは平均価格が他のアイテムより高い設定になっています。基本的に価格が高いと、販売数量は安いアイテムより低くなることが一般的ですので、その際は金額/店の数値で比較すべきです。金額/店で見ると5位と6位のアイテムより高いので、販売店率を高めることによって、さらに売上を伸ばす余地がありそうです。

 

次に、3位のアイテムCと4位のアイテムDに注目してください。当期の金額シェアは、0.6ポイントの差がありますが、数量/店の数値はアイテムDの方が高いです。平均価格はアイテムDの方が若干低いですが、金額/店の数値でもアイテムDの方が高くなっています。つまり、両アイテムの販売金額の差は販売店率によるものですが、数字の上では、アイテムCよりアイテムDの方が品揃えすればよく売れる、ということが言えます。

 

ここまで市場POSデータ分析の初級レベルを紹介してきましたが、いかがだったでしょうか?これまでの内容を理解できていれば、十分仕事で活用することができるレベルです。

 

 

次回は初級レベルの他の分析の切り口を紹介していきます。

 

 

データ出典:KSP-POS

分析講座 第9回 市場POSデータ分析:初級⑧

今回も販売の要因を分析する指標について、続きを見ていきましょう。

 

前回説明したように、販売金額を分解して要因を分析する3つのパターンのうち、「①販売金額=客数×客単価」は、店舗全体の売上を分析するための分解でした。アイテム別の販売金額を分析する際は、「②販売金額=販売店舗数×1店舗あたりの販売金額」と「③販売金額=販売数量×平均価格」を組み合わせた以下の分解を活用することが一般的です。

 

販売金額=販売店舗数×1店舗あたりの販売金額(1店舗あたりの販売数量×平均価格)

 

サンプル調査である市場POSデータでは、販売店舗数の数値自体に意味はないので、「販売店率」と割合で表示します。

以下のような状況の場合、アイテムAとアイテムBの販売金額の差はどこに要因があるでしょうか。

 

両アイテムの平均価格は同じで、数量/店(1店舗あたりの販売数量)はアイテムBの方が若干高くなっていますので、販売金額の差は販売店率(販売店舗数)の差によるものということがわかります。逆に言えば、アイテムBは店舗に品揃えすれば、アイテムAよりも若干売上が高まるため、販売店率を高めることで、アイテムAの販売金額を上回ることになります。

 

以下のような場合はどうでしょうか。

 

販売店率と平均価格は同じなので、販売金額の差は、数量/店の要因が大きいことがわかりますね。

 

 

一般的に販売店率は小売りへの営業力、数量/店は商品力を表しています。ただし、数量/店の数値は、商品力だけでなく、価格や販売促進によって変化しますので、注意してください。値引きしてエンド特売すれば、数量/店の数値が高まることはイメージできると思います。

 

 

次回は、実際のデータでこれらの指標を見ていきます。

 

 

データ出典:KSP-POS

分析講座 第8回 市場POSデータ分析:初級⑦

今回から数回は、販売金額の要因を分析する指標である販売店率、1店舗あたりの販売数量、平均価格の説明をしていきます。

前提の知識として、小売における販売金額は、以下の要因に分解することができることを理解しておきましょう。

 

①販売金額=客数×客単価
②販売金額=販売店舗数×1店舗あたりの販売金額
③販売金額=販売数量×平均価格

 

①の客数×客単価の「客数」とは、ある店舗に来店したお客様の数、POSデータですので正確に表現すると、「レジを通過したお客様の数」です。来店したけど買い物をせずに帰ってしまったお客様の数は含まれません。「客単価」は、「顧客1人が1回の買い物で購入した金額の平均」です。

 

客数×客単価は小売店が常に意識していることですが、これは店舗全体の売上で分析する切り口です。アイテムAとアイテムBを比較する場合、それらのアイテムを置いている店舗の客数で比較するより、単純に置いている店舗数で比較する方がわかりやすいのは、以下の例でイメージできるでしょうか。

 

例)アイテムAはX店、Y店、Z店で販売している。アイテムBはX店のみで販売している。

よって、アイテムAの客数は、X店、Y店、Z店合計の3,300人、アイテムBの客数はX店の1,000人。

  1. 「アイテムAの客数は3,300人で、アイテムBの客数は1,000人」
  2. 「アイテムAは3店舗、アイテムBは1店舗で販売している」

2.の方がわかりやすいですよね。
イメージしやすい販売店舗数を表している指標が「販売店率」です。

 

 

次回は、販売店率を含めたPOSデータ分析でよく活用する分析方法を紹介していきます。

 

 

データ出典:KSP-POS

分析講座 第7回 市場POSデータ分析:初級⑥

前回に引き続き、アイテムランキングのデータを見ていきます。

 

 

 

 

リーフ日本茶販売金額アイテムランキング 全国
20年4月-21年3月vs 21年4月-22年3月

 

1位のアイテムAは当期の金額シェアが4.0%で、他のアイテムと比較して圧倒的なシェアを獲得し、さらに0.1ポイント金額シェアを伸ばしています。金額シェア2%台のアイテムBとアイテムCは、金額シェアは維持していますが、金額増減率は大きく落ち込んでいます。4位以下のアイテムについても、新商品を除いてほとんどのアイテムの金額増減率が落ち込んでおり、厳しい状況になっています。

そして、販売金額の増減の要因を分析する指標が、販売店率、1店あたりの販売数量、平均価格の3つです。POSデータは「なぜ販売が減少したのか(伸びたのか)」という疑問について、「家庭で急須を使ってお茶を入れる世帯が減少している」のような消費者行動視点での要因はわかりません。しかし、販売の視点での要因はPOSデータで分析することができ、その指標が上記の3つの指標となります。

 

次回から数回に分けて、この3つの指標について説明していきます。

 

データ出典:KSP-POS

分析講座 第6回 市場POSデータ分析:初級⑤

今回は、アイテム分析を紹介します。

カテゴリー分析からの流れでアイテム分析をする場合は、アイテムランキングで上位アイテムの動向を知ることが一般的です。

 

 

リーフ日本茶販売金額アイテムランキング 全国
20年4月-21年3月vs 21年4月-22年3月

 

データ指標は左から、販売金額増減率、金額シェア、販売店率、1店舗あたりの販売数量(個数)、平均価格です。販売店率と1店舗あたりの販売数量(個数)は、次回以降説明していきます。

上の表では、販売金額は増減率だけ表示し、販売金額の数字は表示していませんが、もちろん販売金額を表示することは問題ありません。ただし、サンプル調査である市場POSデータの販売金額は、当然、実際の市場の販売金額(市場規模)とは異なりますので、数字自体に意味はありません。増減率など比較することで意味のある数字になってくるため、販売金額は非表示にしています。

ランキング5位や7位、11位のアイテムの増減率が1,000パーセント代の数値になっており、非常に売上が伸びていると思ったかもしれませんが、これらのアイテムは前期の途中に発売された新製品です。POSデータはJANコードでアイテムを管理していますので、リニューアル品も新しいJANコードになれば、新製品扱いになりますので、データを見る際は注意する必要があります。

 

次回、このアイテムランキングのデータを分析していきます。

 

データ出典:KSP-POS

分析講座 第5回 市場POSデータ分析:初級④

今回はメーカー別の分析を紹介します。自社がメーカーであれば、自社と競合の関係を把握するうえで、重要になってきます。しかし、卸売業や小売業にとっては、必ずしも必要な切り口ではありません。ですので、メーカーが小売業への提案にデータを紹介する場合は資料として含めないのが一般的です。

 

 

メーカー別分析も今まで見てきたアウトプットイメージと基本的に同じです。第2回で説明したように、カテゴリー別の割合は「構成比」と表現するのに対して、メーカー別やアイテム別の割合は「シェア」と表現します。

 

 

リーフ日本茶のメーカーは地域密着の企業が多いため、全国的に展開している企業は1社のみです。その大手メーカーAは金額シェアが23.3%で、比較期間の22.3%より1ポイント伸ばしています。加えて金額増減率は若干のマイナスながらも、上位メーカーの中で最も小さい下げ幅となっていました。リーフ日本茶の落ち込みは、2位メーカー以下の影響が大きいことがわかります。

 

構成比やシェアの比較期間差(前期差)は「〇〇%伸びた」と言わずに、「〇〇ポイント伸びた」と言いますので、覚えておいてください。

 

次回はさらに小さく落とし込み、アイテム別分析を紹介していきます。

 

 

データ出典:KSP-POS

分析講座 第4回 市場POSデータ分析:初級③

今回は、第2回と第3回で紹介したカテゴリー分析の次のステップについて紹介します。

第2回で説明しましたが、POSデータ分析の基本は以下の2つです。

①数字そのものよりも、比較することで違いに着目する。

②大きいものから小さいものへ落とし込んでいく。

 

第2回と第3回では、嗜好飲料という大きなカテゴリーを②の小さなカテゴリーに落とし込み、①のカテゴリー別の大きさの比較(金額構成比)と期間の比較(増減率)をすることで違いに着目しました。

次は②さらに小さいものへ落とし込むことをしていきます。

 

上の2つのグラフは、日本茶カテゴリーのサブカテゴリー別販売金額構成比と増減率です。日本茶カテゴリーの中では、リーフ日本茶の金額構成比が50%を超えており最も大きい一方、増減率は94.3%で最も落ち込みが大きくなっています。どのサブカテゴリーの伸び率もマイナスですが、リーフ日本茶の落ち込みが最も大きく、日本茶カテゴリーのマイナスに最も大きく影響していることがわかります。

 

なお、カテゴリーやサブカテゴリーの分類方法は、統一された分類はなく、同じカテゴリーの企業でも分類の考え方は異なります。サブカテゴリー別に分けるだけでなく、容器別や容量別など分類の仕方は様々ですので、基本的には自社が定義している分類や契約しているデータに付属している分類を活用することが一般的です。

 

次回はさらに小さいものへ落とし込んで、データを見ていきます。

 

データ出典:KSP-POS

分析講座 第3回 市場POSデータ分析:初級②

今回は、前回紹介したグラフをもとに、データの見方について説明していきます。

 

データを見る際、増減率(伸び率)を見る場合は構成比とセットで分析することが大切であることを知っておいてください。

右のグラフの数値を見ると、嗜好飲料合計は97.0%と前期比(比較期間比)マイナスになっています。では、嗜好飲料のマイナスに寄与してしまったカテゴリーは何かと考えると、増減率(伸び率)だけを見ると、ココア90.8%、麦茶93.8%で減少率が大きくなっているため、ココアと麦茶の不調によって、嗜好飲料市場は落ち込んだと思ってしまいます。

 

しかし、このデータの見方は誤りですね。左のグラフの金額構成比を見ると、ココアと麦茶は嗜好飲料の中で非常に小さなカテゴリーであることがわかります。そのため、ココアと麦茶は増減率が小さくても嗜好飲料全体への影響は大きくありません。

 

嗜好飲料の中では、インスタントコーヒー、レギュラーコーヒー、日本茶の金額構成比が高いため、これらのカテゴリーが嗜好飲料全体の増減率への影響度が高くなります。増減率はインスタントコーヒーが96.4%、日本茶が95.7%となっており、この2つのカテゴリーによって、嗜好飲料がマイナスになったことがわかります。

 

このように増減率だけ見ていると、ミスリードすることがよくありますので、注意しましょう。

 

次回は、今回の次のステップとして行う分析を紹介していきます。

 

 

データ出典:KSP-POS

分析講座 第2回 市場POSデータ分析:初級①

今回から、市場POSデータを活用した分析の基本を説明していきます。

まず、POSデータ分析の基本は以下の2つです。

①数字そのものよりも、比較することで違いに着目する。

②大きいものから小さいものへ落とし込んでいく。

 

まず、「①数字そのものよりも、比較することで違いに着目する。」を見ていきましょう。比較する項目は様々ありますが、最も多いのは期間の比較です。「前期比5%アップした」という表現は、記事などでもよく目にしますね。

次に、競合との比較も多いですね。競合とは、競合商品のことだけでなく、カテゴリーやメーカーなど様々あります。

以下はアウトプットイメージです。

 

 

左のグラフは、カテゴリー別の販売金額の大きさを比較したものです。メーカーやアイテム比較では割合を「シェア」というのが一般的ですが、カテゴリーの割合は「構成比」というのが一般的です。

 

右のグラフは、販売金額の増減率です。100%を基準として、100%を超えていれば比較期間より伸びている、100%未満であれば比較期間より落ち込んでいることになります。

 

次回は、こちらの2つのグラフの見方について、もう少し詳しく説明していきます。

 

 

データ出典:KSP-POS