こぼれ話

季節の変わり目に起こる「売れ筋のズレ」

POSデータを日々見ていると、季節の変わり目に「これまで売れていた商品が急に売れなくなる」現象にたびたび遭遇します。まさに「売れ筋のズレ」です。これは多くの店舗で共通して見られる傾向であり、販促計画を立てるうえで見過ごせないポイントになります。

例えば、9月下旬ごろになると、まだ日中は暑さが残っているにもかかわらず、アイスクリームや冷たい飲料の売上が急に落ちることがあります。その一方で、温かい飲み物や即席スープ類の売上が、気温に見合わないほど早く伸び始めることがあります。これは、気温そのものよりも「季節感」や「気分」によって消費者の購買行動が左右されている証拠といえるでしょう。

また、衣料品や生活雑貨でも同じ現象が見られます。例えば、10月に入っても日によってはまだ暑い日があるのに、半袖Tシャツの売上が減り、長袖インナーやあったかグッズが動き始めることがあります。これは、店舗のディスプレイや広告が「秋・冬モード」になることで、消費者の意識が切り替わるためと考えられます。

こうした「売れ筋のズレ」は、売上の波を見逃さないPOSデータ分析によって早期に察知することが可能です。実際、過去データをもとにタイミングを予測し、販促の切り替えを早めた店舗では、売上の落ち込みを最小限に抑えることができた事例もあります。季節の変わり目は、気温や天候に加えて「気分」や「先取り意識」といった、目に見えない要素が売上に影響を与えます。POSデータを活用し、リアルタイムに消費行動を読み取ることで、こうした「ズレ」にいち早く対応し、機会損失を防ぐことができるのです。

雨の日と売上の意外な関係

天候が消費行動に影響を与えることはよく知られていますが、POSデータを分析すると、雨の日に特定の商品が売れやすくなる傾向があることがわかります。今回は、雨の日の売上の変化について、意外なデータをもとにお話しします。

あるスーパーマーケットのPOSデータを分析したところ、雨の日には即席食品や冷凍食品の売上が増えることが判明しました。これは、外出を控える消費者が多く、簡単に調理できる食品を購入するためと考えられます。特に、カップラーメンやインスタントスープの売上は晴れの日と比較して1.5倍以上に増えていました。また、冷凍うどんやパスタソースの売上も伸びており、自宅で温かい食事を手軽に準備したいという需要があることがうかがえます。

一方で、意外な商品として「お菓子」と「アルコール」の売上が増加していることもわかりました。特にチョコレートやポテトチップスのようなスナック菓子は、雨の日に通常よりも20%以上売上が上がることが確認されました。これは、外出せずに家で過ごす時間が増えることで、映画鑑賞や読書のお供としてお菓子を楽しむ人が増えるためと考えられます。これと同様に、ビールやチューハイなどのアルコール飲料も雨の日に売れやすい傾向にあります。

さらに、雨の日に売上が伸びる商品の一例として「クリーニング用品」や「室内消臭剤」も挙げられます。部屋干しの機会が増えることで、衣類用の消臭スプレーや除湿剤の購入が増えるのです。特に、雨が続く時期にはこの傾向が顕著になり、店舗によっては通常の1.3倍以上の売上を記録することもありました。

一方で、炭酸飲料やアイスクリームのような冷たい飲食物は、ブランドや容量によっても異なりますが、晴れの日に比べて売上が減る傾向が見られます。また、アウトドア関連の商品や衣料品の一部も、天候の影響を大きく受けるため、販売計画を考える際には天気予報と連動させることが重要になります。

レジ前商品が狙う“ついで買い”の正体とは?

スーパーやコンビニのレジ周りには、ガムやチョコレート、小さなスナック菓子などが並んでいます。いわゆる「レジ前商品」と呼ばれるこれらの商品は、「ついで買い」を狙った配置とされていますが、実際にどれほどの効果があるのでしょうか?POSデータを分析することで、その実態を探ってみました。

あるコンビニのPOSデータをもとに、レジ前商品の販売動向を調べたところ、確かに他の棚の商品と比べて「単品購入率」が高いことがわかりました。つまり、レジ前の商品は「ほかの商品と一緒に買われる」のではなく、「それ単体で買われる」ことが多いのです。特に、仕事帰りの時間帯や週末の午後にその傾向が顕著に表れていました。これは、ちょっとした気分転換やおやつとしての需要が高いことを示しています。

また、レジ前商品の種類によって売上に違いがあることも明らかになりました。例えば、ガムやミントタブレットは朝と昼の時間帯に、チョコレートやスナック菓子は夕方以降に売れやすい傾向がありました。これは、朝の通勤・通学前に口臭ケアとしてガムが買われたり、夜に甘いものを求める消費者が増えたりするためと考えられます。さらに、レジ前に新商品を置くと、通常よりも売上が伸びるケースが多いことも確認できました。これは、消費者が会計時に目新しさを感じ、思わず手に取るケースが多いためと考えられます。

しかし、すべてのレジ前商品が必ずしも売れるわけではありません。POSデータを分析すると、商品の種類や価格によって売れ行きに大きな差があることがわかります。例えば、高価格帯の商品や目立ちにくいデザインのものは、レジ前に置かれていてもあまり手に取られない傾向があります。逆に、小さいサイズで手頃な価格の商品は「ついで買い」されやすく、売上に貢献しやすいことがわかりました。

このように、レジ前商品の効果は決して一概には語れませんが、適切な商品選びと配置によって売上を伸ばすことが可能です。POSデータを活用し、時間帯や客層に合った商品を配置することで、より効果的な販売戦略を立てることができます。

POSデータが明かす意外な人気商品

POSデータを分析していると、思いもよらない商品が売れ筋になっていることに気づくことがあります。今回は、そうした「意外な人気商品」についてお話しします。

あるスーパーのPOSデータを分析した際、特定の即席スープが予想以上に売れていることがわかりました。このスープは特に広告が打たれているわけでもなく、棚の目立つ場所に置かれていたわけでもありません。しかし、販売数を詳しく調べると、特定の時間帯に集中して売れていることが判明しました。そこで、レシートデータと照合したところ、同じ時間帯にパンやサラダを購入しているお客様が多いことがわかりました。これは、昼食需要の高まりと関係していると考えられます。

また、別の店舗では、ある地域でのみ「小さなボトル入りの醤油」が売れ続けていました。通常サイズの醤油よりも割高であるにもかかわらず、なぜ売れているのか不思議に思い、購入者層を分析してみました。すると、この店舗の近くには単身者向けの賃貸物件が多く、小さなサイズの醤油の需要が高いことがわかりました。単身者にとっては、醤油を大きなボトルで購入すると使い切れずに余ってしまうため、少量サイズの方が便利だったのです。

このように、POSデータの分析によって、通常の売れ筋ランキングでは見えにくい「隠れた人気商品」を見つけることができます。そして、その背景には必ず顧客の生活スタイルや購買行動が関係しています。データをもとに消費者の行動を読み解くことで、新たな売上向上のヒントが見つかるかもしれません。