かつてドラッグストア(DgS)は、食品の品揃えを強化することで来店頻度を高め、売上を拡大してきました。しかし、昨今の相次ぐ食品値上げの中で、その戦略は今も有効なのでしょうか。本レポートでは、2025年3月-8月のKSP-POSデータを用い、食品スーパー(SM)との比較からDgSにおける食品販売の最新動向と今後の変化の兆しを分析します。
まとめ>
- 2025年3月-8月における食品SMとDgSの食品販売動向を比較した結果、両業態ともに来店客数・バスケット点数(買上点数)は前年を下回る一方、商品単価・客単価は上昇し、全体傾向は類似していた。
- 食品SMのバスケット点数はDgS(食品)の約1.5倍、商品単価は+5%、客単価は1.6倍だった。依然としてSMは「まとめ買い」、DgSは「ついで買い」の傾向が強いことがわかる。
出典:KSP-POS(食品SM/DgS(食品)、2025年3月-8月累計 全国)
大分類別 金額PI/数量PI/平均価格 動向>
◆ 加工食品
- 食品SM・DgS共に金額PIの前年比はプラス、数量PIはマイナス、平均価格はプラスと同傾向。両業態で値上げによる買い控えが確認された。
出典:KSP-POS(食品SM/DgS(食品)、2025年3月-8月累計/月次 全国)
◆ 菓子
- 金額PIは食品SM・DgS共に前年比はプラスでDgSが2ポイント高く、数量PIは食品SMがマイナスでDgSは前年並み(2ポイント差)、平均価格は両業態共にほぼ同レベルでプラスだった。値上げの影響がDgSより食品SMにやや強めに出たようだ。
出典:KSP-POS(食品SM/DgS(食品)、2025年3月-8月累計/月次 全国)
◆ 飲料
・飲料は加工食品と同じく、食品SM・DgS共に金額PIはプラス、数量PIはマイナス、平均価格はプラスとほぼ同傾向だった。
出典:KSP-POS(食品SM/DgS(食品)、2025年3月-8月累計/月次 全国)
◆ 酒類
- 酒類はDgSで大容量パックなどの販売構成比が高い傾向にあるため他の大分類と異なり、金額PI・数量PI、平均価格は食品SMよりDgSが高い。
- 前年比も食品SMは金額PI・数量PIはマイナスで平均価格はプラス。DgSは3指標がプラスと、他分類とは異なる傾向を示した。
出典:KSP-POS(食品SM/DgS(食品)、2025年3月-8月累計/月次 全国)
カテゴリー別詳細>
【マヨネーズ】 【インスタント袋麵】 【カップ麺】 【オリーブオイル】
次に加工食品の中で、分類全体と少し違った動きをしたカテゴリーの動向を検証。
◆ マヨネーズ 平均価格傾向が業態で異なる>食品SMはマイナス・DgSはプラス
- 食品SMは金額PIが前年比マイナス、数量PIは前年並み、平均価格はマイナスで、DgSは金額PIと数量PIが前年比マイナス、平均価格はプラス。月次で見てもDgSの平均価格は上昇傾向。
出典:KSP-POS(食品SM/DgS(食品)、2025年3月-8月累計/月次 全国)
【アイテムランキング】
出典:KSP-POS(食品SM/DgS(食品)、2025年3月-8月累計 全国)
【キユーピー マヨネーズ 450g】
- 食品SMでの平均価格がDgSより高い商品が多い中で、食品SMでランキング1位、DgSで2位の「キユーピー マヨネーズ 450g」を比較すると、この商品のDgSにおける平均価格は食品SMより高く価格差が10円以上の期間もあり、数量PIは直近6ヵ月で食品SMは101%と前年並みだったのに対し、DgSは94%と前年を下回った。価格差が一因であることが窺われる。
出典:KSP-POS(食品SM/DgS(食品)、6ヵ月累計 全国)
【味の素 ピュアセレクトマヨネーズ 400g】
- 食品SMでランキング2位、DgSで1位の「味の素 ピュアセレクトマヨネーズ 400g」を比較すると、「キユーピー マヨネーズ 450g」と同じくDgSにおける平均価格の方が食品SMより高い傾向にあり、直近6ヵ月では11円高かった。数量PIは食品SMは102%だったのに対しDgSは92%で、価格の高いDgSで売上が下降。
出典:KSP-POS(食品SM/DgS(食品)、6ヵ月累計 全国)
◆ インスタント袋麺 平均価格が高いDgSで、金額・数量PIとも大きくダウン
[金額PI/数量PI/平均価格 動向]- 食品SMでは3指標マイナスで、DgSは金額PIと数量PIが前年比マイナス、平均価格はプラス。月次で見てもDgSの平均価格は25年4月以降上昇継続。
出典:KSP-POS(食品SM/DgS(食品)、2025年3月-8月累計/月次 全国)
【アイテムランキング】
出典:KSP-POS(食品SM/DgS(食品)、2025年3月-8月累計 全国)
【サッポロ一番 塩らーめん 5食】
- 食品SM・DgS共にランキング1位の「サッポロ一番 塩らーめん 5食」を比較すると、DgSにおける平均価格の方が食品SMより高く直近6ヵ月は29円まで価格差が広がり、数量PIは食品SMが107%と拡大したのに対し、DgSは91%と前年を大幅に下回った。食品SMとDgSの価格差が、売上の明暗に繋がった可能性が示唆される。
出典:KSP-POS(食品SM/DgS(食品)、6ヵ月累計 全国)
- 食品SMでは金額PI・数量PIが前年並みで平均価格は微減。DgSは金額PIと数量PIが前年比マイナス、平均価格は前年並みだった。
出典:KSP-POS(食品SM/DgS(食品)、2025年3月-8月累計/月次 全国)
【アイテムランキング】
出典:KSP-POS(食品SM/DgS(食品)、2025年3月-8月累計 全国)
【日清食品 カップヌードル 78g】
- 食品SMでランキング1位、DgSで3位の「日清食品 カップヌードル 78g」を比較すると、DgSにおける平均価格の方が食品SMより高く直近6ヵ月は価格差が9円で、数量PIは食品SMは前年比96%、DgSは88%と共に前年割れだったが、DgSの方が下げ幅が大きかった。
出典:KSP-POS(食品SM/DgS(食品)、6ヵ月累計 全国)
◆ オリーブオイル 平均価格が高いDgSで、金額・数量PIとも大きくダウン
- 食品SM・DgS共に、金額PI・数量PIがマイナスで平均価格はプラス。特にDgSでは平均価格の上昇率が110%と高く、金額PI・数量PIの下げ幅も大きかった。
出典:KSP-POS(食品SM/DgS(食品)、2025年3月-8月累計/月次 全国)
【アイテムランキング】
出典:KSP-POS(食品SM/DgS(食品)、2025年3月-8月累計 全国)
【日清オイリオ BOSCOエキストラバージンオイル 456g】
- 食品SM・DgS共にランキング1位の「日清オイリオ BOSCOエキストラバージンオイル 456g」を比較すると、直近1年の価格差は78円→51円とDgSの方が高いにも関わらず、数量PIの下げ幅は食品SMの方が大きい。
- 販売店率を見るとDgSで直近1年20ポイント縮小しており、オリーブオイルの大幅な価格高騰のためDgSでは売れなくなったか或いは販売されなくなった状況が窺われる。
出典:KSP-POS(食品SM/DgS(食品)、6ヵ月累計 全国)
出典:KSP-POS(食品SM/DgS(食品)、6ヵ月累計 全国)
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ドラッグストアの強みであった「価格優位性」が一部のカテゴリーで揺らぎ始めている。
相次ぐ値上げの波の中で、特にマヨネーズやインスタント麺といった価格に敏感なカテゴリーでは、SMとの価格差がDgSでの販売不振に直結するケースが見られた。
今後、食品SMとDgSのチャネル間競争がどのような方向に向かっていくのか興味深いところである。